交通事故専門の弁護士

 

消極損害(2)

  • 後遺障害逸失利益の算定
  • 死亡による逸失利益

■消極損害の全体像

図:消極損害の全体像

後遺障害逸失利益の算定

(1)後遺障害とは

 後遺障害とは,けがが治ったとき身体に存する障害,すなわち,治療を継続してもこれ以上症状が改善する見込みがない状態(症状固定)になったときに残った精神的・身体的な毀損状況をいいます。
 自賠責保険では,自動車損害賠償保障法施行令2条,別表後遺障害別等級表に当てはめて等級認定を行い,裁判でも同様の等級認定を行うのが通常です。
 自賠責保険では,当てはめに際して,労災保険における障害認定基準に準拠するものとされており(支払基準第3),裁判例の大半もこの基準に基づいて等級評価を行っています。ただし,自賠責保険の認定よりも上位等級を認定する裁判例も少なくありません。
 個別にお問い合わせください。

(2)後遺障害の認定手続

◆後遺障害認定および申請手続
 後遺障害に対する自賠責保険金を受領するには,損害保険料率算出機構による等級認定を受ける必要があります。
 認定手続には,以下の二通りがあります。
【事前認定】
 加害者側の保険会社に後遺障害診断書を提出して,加害者側の保険会社から申請をしてもらう方法。
【被害者請求】
 被害者側で必要な書類を全て揃えて,加害者が加入している自賠責保険会社に直接請求する方法。
 事前認定の場合,加害者側から申請してもらうとその際,加害者が加入している保険会社側の意見書等が添付され,不利となることもあるので注意が必要です。
 詳しくはこちらをご参照ください。

◆異議申立手続
 等級認定に不服がある場合には,「異議申立て」をすることができます。異議申立てをしても等級が下がることはありません。また、異議申し立ての回数に制限はありません。
 申立ての必要書類は,a異議申立書,b医師の診断書または意見書,c被害者本人または同居の親族作成の日常生活状況報告書(障害により日常生活に生じた影響を具体的に記載します),dレントゲン写真,MRI,CT等(必要に応じて新たに撮影)等です。

(3)後遺障害逸失利益の算定方法

◆計算式
①有職者または就労可能者 図:有職者または就労可能者

②18歳(症状固定時)未満の未就労者
図:18歳(症状固定時)未満の未就労者
※18歳未満のものについては,通常,就労の始期が18歳とされているため,67歳となるまでの年数に対応するライプニッツ係数から,18歳に達するまでのライプニッツ係数を差し引く傾向にあります。

 上記が算定式ですが,逸失利益は,将来かつ長期であるため「フィクション」としての意味合いを持ちます。
 そのため,逸失利益の認定に当たっては,次のような事情も考慮されます。
 ・現在および将来の昇進・昇給等における不利益の有無
 ・労働能力低下の程度,すなわち業務に対する支障の有無
  (後遺障害の部位・内容・程度と被害者の業務の具体的内容との対応関係に鑑みます)
 ・配置転換を余儀なくされた事情等の有無
 ・退職・転職の可能性の有無
 ・勤務先の規模・業績・雇用環境等
 ・被害者の努力
 ・日常生活上の支障の有無

◆労働能力喪失率とは  後遺障害ページ
 労働能力喪失率とは,労働能力の低下の程度をいいます。詳しくはこちらをご覧ください。
 裁判例は,おおむね上記労働能力喪失率表の数値によったものが多数ですが,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位,程度,事故前後の稼働状況等を考慮して,上記表の喪失率と異なる喪失割合が認定されることもあります。
 自賠責保険の認定より高い算定例としては,自賠責保険非該当を等級認定した裁判例(浦和地判平12・3・29交民33・2・639等),自賠責保険認定等級より上位等級が認定された裁判例(名古屋地判平14・1・25交民35・1・128等)等があります。
 また,後遺障害の内容によっては,労働能力に影響がないとして上記表より低い数値で認定した例もみられます。
 なお,減収が生じていない場合についても,本人の努力等により減収を免れてるものとして逸失利益を認めている裁判例もあります(神戸地判平3・12・20交民24・6・1572等)。

◆労働能力喪失期間とは
 労働能力喪失期間の始期は,症状固定日とされ,未就労者の場合には原則18歳(大学卒業を前提とする場合は大学卒業時)とされます。
 賠償終期については,原則満67歳とされ,例外として,症状固定時から67歳までの年数が平均余命の2分の1よりも短くなる高齢者の労働能力喪失期間は,平均余命の2分の1とされ,事案によっては,期間に応じた喪失率の逓減を認めることもあります。ただし,職種,地位,健康状態,能力等により異なる労働能力喪失期間が認定される場合があります。
 いわゆるむちうち症の場合は,期間が限定される場合が多く見受けられますが,具体的な事案によって異なることに注意が必要です。

◆ライプニッツ係数とは
 ライプニッツ係数について詳しくはこちらをご参照ください。

(4)基礎収入

 (ア)給与所得者
   原則として,事故前の収入を基礎として算定します。
◆事故前の収入
収入には,本給のほか,歩合給,各種手当(残業手当・扶養手当・家族手当等),賞与を含みます。

◆将来の昇給
公務員など給与規定,昇給基準が存在する場合に考慮される例が多いようです。また,将来の昇給が証拠に基づいて相当の確かさをもって推定できる場合には,昇給回数,金額等を予測し得る範囲で控えめに見積もって,これを基準として算出することも許されるとした判例もあります(最判昭43・8・27判時533・37)。

◆定年制
勤務先に定年制がある場合には,定年までは現実収入を基礎とした算定を行い,それ以後については,賃金センサスの年齢別平均賃金(60~64歳,65歳以上)や定年時点の収入を何割が減額した額を基礎として算定する裁判例が多いようです(大阪地判平15・7・4自保1529・21等)。

◆退職金
後遺症により退職してしまった場合,定年まで勤務した場合の退職金額から現実に支給された退職金との差額を逸失利益として認める場合があります(大阪地判平17・3・25交民38・2・433等)。

 (イ)事業所得者
 自営業者,自由業者などの事業所得者については,確定申告の申告所得額が参考にされます。ただし,申告額と実収入額が異なる場合には,立証が可能であれば実収入額により算定されます。

◆本人寄与部分(事業所得者の寄与率の認定)
 事業所得に,事業者本人自身の稼働による利益だけでなく,例えば,家族が事業を手伝っていたり,従業員を雇用しているなど本人以外の第三者の働きによる利益などが含まれる場合については,基礎収入として算定の対象となるのは,本人自身の稼働による利益分(本人寄与部分)となることに注意が必要です。

◆現実収入が平均賃金以下の場合
 平均賃金が得られる蓋然性があれば,男女別の賃金センサスによるのは,前記給与所得者と同様です。

◆実収入の認定
 事故前年の確定申告により所得を認定。青色確定申告控除がなされている場合には,同控除額を引く前の金額を基礎として算定します。
 申告外所得(過少申告・無申告の場合)および赤字申告の場合などについては,休業損害と同様に考えます。

(ウ)会社役員
 会社役員の報酬については,労務提供の対価部分は基礎収入として認められますが,利益配当の実質を持つ部分は認められないのが一般的です。これは,労働能力を(一部)喪失しても不労所得である利益配当部分には影響しない(減収が生じない)ので,その部分は基礎収入に含めない解されるためです。

(エ)家事従事者(主婦など)
 ◆専業主婦の場合
 原則として、賃金センサスの女子平均賃金により損害額を算定します。女子の平均賃金は、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とします。
 ◆有職の主婦の場合
 実収入額が全年齢平均賃金を上回っている時は実収入額によりますが,下回っている時は,前記の専業主婦の場合と同様に処理するとしています。
 なお,有職主婦の場合,通常家事労働分の加算は認められていません。

 判例も,「家事労働に属する多くの労働は,労働社会において金銭的に評価されうるものであり,これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから,妻は,自ら家事労働に従事することにより,財産上の利益を挙げているのである。」とし,専業主婦につき,「平均的労働不能年齢に達するまで,女子雇傭労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である。」としています(最判昭49・7・19判時748・23等)。

(オ)その他(学生・失業中の方など)
①幼児・生徒・学生等
 原則として,幼児・生徒・学生等は,賃金センサスの全年齢平均賃金によります。ただし,生涯を通じて全年齢平均程度の収入を得られる蓋然性が認められない特段の事情が存在する場合には,年齢別平均賃金または学歴別平均賃金(賃金センサス第1巻第1表・産業計・企業規模計・学歴別・男子または女子の労働者の全年齢平均賃金)の採用も考慮します。また,大学生およびこれに準ずるような場合については,学歴別平均賃金の採用も考慮します。
 なお,小学生や中学生の女子の場合は,少なくとも義務教育終了までの女子の年少者については,女子労働者の平均賃金ではなく,男女を含む全労働者の全年齢平均賃金で算定するのが,最近の一般的傾向です(札幌地判平16・4・22自保1563・20等)。

②「幼児・生徒・学生」以外のその他の者
 就労の蓋然性があれば,原則として,賃金センサスの年齢別平均賃金によります。

③失業中の方
 労働能力および労働意欲があり,再就職の蓋然性のある場合に,逸失利益が肯定される傾向にあります。その際,基礎収入は,再就職によって得ることができると認められる収入額によります。その認定に当たっては,失業前の実収入や全年齢平均賃金または被害者の年齢に対応する年齢別平均賃金などが参考にされます。
 休業損害とは異なり,事故時点で収入がないからといって,将来にわたって収入が得られないとするのは不合理であるため,原則的に逸失利益は肯定される傾向にあります。

死亡による逸失利益

(1)算定方法

◆死亡逸失利益
 死亡逸失利益は,基本的には後遺障害逸失利益と類似し,いわば後遺障害により労働能力が100%失われた場合と考えられます。
 後遺障害逸失利益の場合と相違しているのは,被害者が死亡していることから,生活費の支出を免れた利益分の調整のため,生活費控除を行う点です。

◆計算式
図:計算式
 ※「就労可能年数に対応するライプニッツ係数」については,後遺障害逸失利益と同じく,有職者または就労可能者については,67歳までの稼働期間に対応するライプニッツ係数によるのに対し,18歳未満のの未就労者の場合は,事故時から67歳までのライプニッツ係数から18歳に達するまでのライプニッツ係数を控除する必要があります。
ライプニッツ係数について,詳しくはこちらをご参照ください。

(2)基礎収入

 基礎収入については,後遺障害逸失利益の場合とほぼ同様に考えられます。詳しくは,こちらをご参照ください。
 以下,死亡による逸失利益に特有の問題について説明します。

◆高齢者の稼働収入の逸失利益性
 高齢者の場合でも,有職者については,稼働期間の終期が相違するほかは,弱・壮年層との相違はありません。
 問題は,事故時点で金銭収入のない者についてですが,就労の蓋然性があれば,賃金センサスを基準とする原則は壮年層などと同様ですが,高齢者の場合は,蓋然性の判断として,断続的ではあっても就労していたか,就職活動を行っていた事実等の立証が必要とされる傾向があります。また,就労の蓋然性が認められるとしても,何らかの基準となすべき収入がなければ,年齢別の賃金センサスを基準とされることが多いと言えます。

◆高齢者の年金
 年金の種類により逸失利益を認める例と認めない例があります。
 遺族厚生年金についてはおおむね家族の生活保障のためではなくあくまで遺族本人のためであり一身専属性が強いため,逸失利益は認められないとされます(最判平12・11・14判時1732・78等)。
 その他の公的年金である老齢年金・障害年金等については,遺族の生活保障的意味も加味して逸失利益を認める(最判平5・3・24判時1499・49,最判平11・10・22判時1692・50)のが判例の流れと言えます。

◆定年制と基礎収入
 勤務先に定年制がある場合には,後遺障害逸失利益の場合と同様の問題があります。

◆退職金の逸失利益
 退職金規定があるなど退職金支給が確実な企業に勤務していた場合,死亡せず定年まで勤務すれば得られていたであろう退職金額(中間利息控除後)より,死亡時に既に勤務先から支給された退職金との差額を逸失利益として認められています(最判昭43・8・27判時533・37)。

◆会社役員
 会社役員死亡の逸失利益算定においては,利益配当的部分も失うことから,労務対価部分だけではなく利益配当的部分も基礎収入に含めるべきかが問題となりますが,休業損害・後遺障害逸失利益と同様に,労務対価部分についてのみ損害算定の基礎収入とされ,利益配当的部分については判例は消極的です(最判昭43・8・2判時530・35等)。
 なお,規模の相違やその地位の実質により,労務対価部分と利益配当的部分が明確に区別されず,労務対価部分の判断には,諸要素を考慮して検討する必要があることも休業損害などと同様です。

(3)生活控除率

 生活控除率とは,被害者の方がお亡くなりになったことによって,将来の収入から支払われるはずであった被害者の方の生活費の支払を免れるため,将来の生活費相当分を控除する一定の割合をいいます。
 生活控除については,被害者の家族関係・性別・年齢などに応じて逸失利益全体に対して一定の割合を控除する方式がとられています。控除の割合については,各賠償基準が発表されています(財団法人日弁連交通事故相談センター本部の「青本」基準)。

◆生活費控除率の基準
 a 一家の支柱の場合・・・・・・30~40%
 b 女性(女児・主婦を含みます。)・・・・・・30~40%
※女子の平均給与が男子に比べて低いため,公平の観点から格差を設けたのだとされています。
 c 男性単身者(男児を含みます)・・・・・・50%
※この場合は,ほとんどを親が相続するため,遺族の扶養を考慮する必要がないため率が高くてもやむを得ないとされています。

(4)就労可能年数

 労働能力喪失期間の始期は,原則18歳,就労可能年数は原則67歳(大学進学や卒業が確実とみられる場合については大学卒業予定時)とされます。高齢者の場合,67歳までの就労可能年数と簡易生命表の余命年数の2分の1のうち,長期の方を就労可能年数とします。

(5)中間利息控除率

 中間利息の控除率は,年5分の割合によります(最判平17・6・14判時1901・23)。ライプニッツ係数にて計算します。

(6)その他

◆内縁の配偶者などの扶養利益の喪失損害
 内縁の配偶者など相続人ではない者が将来の扶養利益を喪失したことによる損害賠償も認められています(最判平5・4・6判時1477・46)。
 被害者の収入の範囲内で現実に得ていた金額に扶養を受けられた期間に対応するライプニッツ係数を乗じて算定することになります。
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