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消極損害(1)

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  • 休業損害

■消極損害の全体像

チャート1

消極損害

 消極損害とは,事故により失った得べかりし利益,すなわち,事故がなければ将来被害者が得られたであろうと考えられる利益を事故によって失ったことによる損害をいいます。
 このように積極損害が,加害行為により被害者の財産がマイナスになった損害をいうのに対し,消極損害は加害行為により財産がプラスにならなかった損害をいいます。
 消極損害には,休業損害と逸失利益があります。
 逸失利益とは,加害行為がなければ被害者が将来得られるであろう経済的利益を失ったことによる損害です。「利益」という文言を使いますが,「損害」を意味します。
 逸失利益の種類には,「後遺障害による逸失利益」と「死亡による逸失利益」に2つがあります。

■休業損害と逸失利益のイメージ

図:休業損害と逸失利益のイメージ

休業損害

 休業損害とは,被害者が受傷の治療または療養のために休業または不十分な就業を余儀なくされたことにより,傷害の治癒または症状固定時期までの間に生じた収入減(経済的利益の喪失),すなわち,得べかりし収入を得ることができなかったことによる損害をいいます。
 事故前の収入を基礎とする現実の収入減を補償するものであり,休業以外の遅刻・早退・労働能力低下などにより生じた減収も含まれます。
 なお,自賠責保険の基準では,原則1日5,700円となっています(支払基準第2・2(1))。

■休業損害の算定方法


図:休業損害の算定方法
 基本的には,被害者が事故時において現に就業による収入を得ていたことが必要です。また,現に休業し,収入減が生じていることが必要です。

■休業日数

 休業損害証明書などで休業日数が明確な場合は,基礎収入に休業日数を乗じた金額が休業損害となりますが,休業日数が長期にわたり休業の必要性が問題となる場合や,主婦や失業者については,休業日数が必ずしも明確ではないため,休業日数の認定が問題となります。
 この点に関しては,下記のような算定方法があります。
①収入日額×認定休業日数
 治療期間の限度内で相当な休業日数を認定します,相当な休業日数とは,就業困難とするのが相当と考えられる期間を認定します。
②収入日額×期間1+収入日数×期間2×X%+・・・
 症状の推移を見て時間経過とともに,収入日額の一定割合の減じた額をもとに計算をして,積算して治療期間中の損害額を算定します(京都地判平6・12・22交民27・6・1884等)。
 この算定方法による裁判例もありますが,負傷の程度・回復の状況・職務内容等具体的事情を総合判断した上でとられる方法ですので,一般的な基準があるものではありません。
③収入日額×実通院日数
  休業日数を実治療日数に限定する手法を用いて算定します。
④収入日額×治療期間総日数
  期間の長短・負傷の程度・職務内容によっては,この方法により算定されることもあります。

■損害立証のための書類

 休業侵害を立証するための書類としては,休業損害証明書,源泉徴収票,給与明細書,確定申告書控え,住民税課税証明書等があります。

 

(1)有職者


  (ア)給与所得者
給与所得者とは、雇用契約などの法律関係のもとに、労務を提供し、その対価として所得を得ている者をいいます。

◆給与所得者の基礎収入:給与額の算出方法
 大別して下記のような2方法があります。
 ① 事故前3か月の平均給与を基礎とする方法
 ② 年間給与・年収を基礎とする方法
 保険実務では、①の方法が一般的ですが、②の方法による裁判例もあります(大阪地判平6・3・28交民27・2・438等)。また、①の方法による場合でも、賞与・昇給等の損害が発生する場合は別途資料に基づき算定する必要があります。
 給与額には、基本給のほか、各種手当(住宅手当・超過勤務手当・皆勤手当など)、賞与を含みます。ただし、賞与については別個に請求することもあります。
 有給休暇を利用した場合についても休業損害として認められます。
 休業中に給与の増額があった場合(昇給・昇格等により)は、増額後の収入(調整手当の増額分等も含みます)を基礎収入とします(大阪地判平6・3・28交民27・2・438等)。  また、休業に伴って賞与の減額・不支給があった場合や、休業により昇給・昇格が遅延した場合、降格・配置転換により昇給額が減少した場合についても損害として認められています(福岡地小倉支判昭62・7・3交民20・4・913)。

◆休業による降格・昇給昇格遅延による減収
 事故による欠勤により降格されたり、本来あるべき昇給・昇格がない場合は、本来支給されるべき金額と実際の支給額の差額を損害として請求できます(東京地判昭54・11・27判時953・76、大阪地判昭61・10・14交民19・5・1388)。ただし、立証が必要となります。
 また、受傷ないしその治療を原因として退職した場合は、基本的には無職状態となった以降も、現実に稼働困難な期間が休業期間とされます。試用期間中に事故に遭い休業により会社を解雇された場合に休業損害を認めた裁判例があります(大阪地判平2・4・26交民23・2・532)。

  (イ)事業所得者
 事業所得者とは、個人事業主(商・工業者、農林・水産業者など)、自営業者、自由業者(弁護士、開業医、著述業、プロスポーツ選手、芸能人、ホステス等報酬・料金などによって生計を営む者)などをいいます。

◆事業所得者の基礎収入とは
 基本的には得られたはずの売上額からこれを得るために必要としたはずの原価と経費(主に流動経費)を控除し、その売上額や原価.経費は休業前の実績の平均的数値に基づいて判断します。

図:事業所得者の基礎収入
流動経費(変動費)=休業によって支出を免れる経費
cf.固定経費=休業と無関係に支出しなければならない経費
 経費の内、休業中も事業の維持・継続のために支出することがやむを得ない固定費は、相当性がある限り休業損害に含まれます。固定費か否かは、事業の内容・経費の種類等によって決まります。典型的なものとしては、地代家賃、電気代などの公共料金、租税公課、損害保険料、従業員の給与、減価償却費等があります。


◆収入額の認定
 事業所得者の事故前の収入額は、原則として、事故前年の確定申告所得によって認定します。なお、収入額に相当な変動がある場合は、事故前数年分を用いることもあります。

◆本人寄与部分(事業所得者の寄与率の認定)
 事業所得に、事業者本人自身の稼働による利益だけでなく、本人以外の第三者の働きによる利益などが含まれる場合については、休業補償の対象となるのは、本人自身の稼働による利益分(本人寄与部分)だけです。  具体的には、家族等が労務を提供して事業を補助していたり、従業員を雇用している場合や、土地・建物その他の施設を利用することによって生み出された不動産の賃料、利子、老舗や特許権等に基づく利益が含まれている場合は、これらの利益は休業補償の対象とはなりません。
 本人寄与率は、個々のケースに応じて算定されますが、判断要素としては下記諸要素などが挙げられます。
a 事故前後の収支状況・営業状況
b 業種・業態
c 事業所得者の職務内容・稼働状況
d 家族・他の従業員の関与の程度・給与額
e 代替労働力の雇用

  (ウ)会社役員
 会社役員は、会社との委任契約に基づいて経営業務を委託される受任者です。役員の報酬は委任業務に対するものであり、給与と異なり休業したからといって直ちに全額を減額されるものではありません。  その報酬には、労務提供の対価部分としての報酬と利益配当の実質を有する報酬とがあり、利益配当的部分については、その地位に留まる限り休業をしても原則として逸失利益の問題は発生しないものと考えられています(東京地判昭61・5・27判時1204・115)。
 しかし、会社役員といっても規模の相違やその地位の実質により、労務対価部分と利益配当的部分とが明確に区別されない場合もあります。
 まず、個人事業主の場合は、前記の事業所得者と実質的には相違しないため、事業所得者と同様に処理がなされます。また大企業の役員の中でも、いわゆるサラリーマン役員であり、給与所得者と同様の取扱いが相当である場合もあります。中小企業の場合は、その実態に応じて、事業所得者・給与所得者・会社役員として取り扱うことになります。
 労務対価部分の判断においては、以下のような要素が検討される傾向にあります。
a 会社の規模(および同族会社か否か等)・利益状況
b 当該役員の地位・職務内容、年齢
c 役員報酬の額
d 他の役員・従業員の職務内容と報酬・給与の額
  (親族役員と非親族役員の報酬額の差違)
e 事故後の当該役員および他の役員の報酬額の推移
f 類似法人の役員報酬の支給状況等

◆企業損害
 企業損害とは、企業の取締役・従業員などが交通事故によって死傷した場合に企業に生じる収益減少などの損害をいいます。  この損害は、間接的な損害ですので、直接の損害である役員個人の報酬の問題とは違い、企業のような間接被害者は原則として損害請求主体として認められませんが、被害者と企業との間に経済的同一体の関係の成立があり、代表取締役が会社の機関として代替性がない場合には、会社の収益減少による損害は、代表取締役の受傷と相当因果関係のある損害とした判例があります(最判昭43・11・15判時543・61)。また、両者の間に、いわゆる財布共通の原則がある場合に、企業損害を認める事もあります。

 

(2)家事従事者


◆家事従事者についての原則
 家事従事者とは、主婦に限らず、現に主として家事労働に従事する者をいい、性別・年齢を問いません。
 事故の負傷により家事従事者が休養した場合にも、その休業損害の賠償責任が認められます(最判昭50・7・8裁判集民115・257)。
 家事従事者の損害の算定は、原則として、賃金センサスの女子平均賃金により損害額を算定します。女子の平均賃金は、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とします。
 一人暮らしの無職女性の場合には、原則として休業損害は認められません。ただし、夫と死別して一人暮らしをしていた女性(78歳)につき、女子学歴計年齢別(65歳以上)賃金センサスを基礎に休業損害および逸失利益を算定した裁判例があります(東京高判平15・10・30判時1846・20)。
 男子の家事従事者についても、前記の女子労働者の賃金センサスにより算定されます
(東京地判平16・9・1自保1582・18、京都地判平17・7・28自保1617・5等)。

◆その他の場合
 有職主婦(兼業主婦)の場合については、現実収入が平均賃金を超えるときは現実収入を基礎とし、現実収入が平均賃金以下のときは、平均賃金を基礎として算定します。  高齢の主婦の場合には、年齢別の賃金センサスにより算定し、また、賃金センサスの額の7割、8割に減額することがあります。

◆家事代替労働のための支出
 家事代替労働、すなわち、主婦が、炊事・洗濯・掃除・子供の養育などについて、休養中に他人を使用した場合の支出については、職業的な者を雇う場合や、親族・知人などの非職業的な者に対して謝礼を払う場合ともに、その必要性が認められる限り、支出した賃金または謝礼について、原則として休業損害として認められます。
 この場合、現実に支出された費用の金額と主婦本人につき計算した休業損害額のいずれか高い方の限度額を認めます。

 

(3)無職者


  (ア)失業者
 失業者とは、失職などにより就業しておらず収入を得ていない者をいいますが、原則として休業損害は生じません。
 例外として、労働能力および労働意欲があり、治療期間内に就労の蓋然性があるものには休業損害が認められますが、その場合でも平均賃金より下回った金額となります。
 具体的には就職が内定している場合など、就労開始が具体的に予定されている場合は認められます(大阪地判平9・11・27交民30・6・1696等)。また、就労開始のための準備をしていた場合や、就職活動中などについても認められ(東京地判平7・7・18交民28・4・1077等)、労働能力と労働意欲があって、職種その他の事情からみて、近い将来に就職する蓋然性が高ければ休業損害が認められています(名古屋地判平18・3・17自保1650・14)。

  (イ)学生・生徒・幼児等
 学生等は、原則として、休業損害は認められませんが、アルバイトをしているなど、収入がある場合には、認められる場合があります。また、治療が長期にわたり、学校の卒業ないし就職の時期が遅延した場合には、就職すれば得られたはずの給与額が休業損害として認められることがあります(東京地判平12・12・12交民33・6・1996等)。
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