■積極損害の全体像
■損害費目一覧表
治療費は,当該交通事故から発生した傷害の治療に必要かつ相当な範囲であればその実費全額が損害として認められます。
同様に,温泉治療費等に関しても,医師の指示等により同様に認められる可能性があります。
しかし,現実には,改善は期待できないものの,リハビリテーションが必要な場合,また保存的治療が必要な場合等もあり,その支出が相当な場合には,損害として認められることになります。
■自由診療とは?
交通事故による治療行為は,自由診療で行われる場合は少なくなく,同一の治療内容であっても,健康保険を利用した場合の治療費の数倍という場合もあります。これは診療単価が健康保険を利用した場合1点10円とされているのに対し,自由診療においてはその制限がないことによります。■鍼灸,マッサージ費用などは認められるか?
鍼灸,あんま,マッサージ等の医師以外が施術する場合の治療費は,施術の手段・方式や成績判定基準が明確ではない等施術の客観的な治療効果の判定が困難であること,施術者によって技術が異なり,施術の方法,程度も多様であること,施術費算定についても診療報酬算定基準のような明確な基準がないということから,その治療費が損害として認められるためには,原則として医師の指示によることが必要です。しかし,医師の指示がない場合でも,症状の回復に有効で,施術内容が合理的かつ費用,期間等も相当な場合には,損害として認められる場合もあります(東京地判平16・2・27交民37・1・239等)。同様に,温泉治療費等に関しても,医師の指示等により同様に認められる可能性があります。
■症状固定後の治療費は認められるか?
症状固定とは,これ以上治療しても症状が改善しない状況を言います。症状固定後の治療費は,原則として認められない傾向にあります。しかし,現実には,改善は期待できないものの,リハビリテーションが必要な場合,また保存的治療が必要な場合等もあり,その支出が相当な場合には,損害として認められることになります。
■入院付添看護費
付添看護費は,原則として医師の指示がある場合,または受傷の程度,被害者の年齢等により必要性がある場合に認められます。職業付添人の場合には実費の全額が認められます。
近親者の付添の場合には受傷の程度,付添の程度により差があり,また裁判例でも額には幅があるものの,入院付添1日につき6,000円から8,000円程度が通常です。なお,「赤い本」の基準では6,500円とされています。
■通院付添看護費
通院付添看護費に関しては,症状のほか,被害者が幼児,身体障害者である等必要と認められる場合には,被害者本人の損害として1日につき3,000円から4,000円程度が認められます。なお,「赤い本」の基準では3,300円とされています。■将来の付添看護費,雑費
医師の指示,または重度後遺障害等症状の程度によりその必要性がある場合に,被害者本人の損害として認められることになります。将来の付添看護費としては,原則として平均余命までの間,職業付添人の場合は実費全額,近親者付添の場合は看護状況により増減はあるものの1日6,500円から1万円程度が認められます。なお,「赤い本」の基準では,8,000円とされています。
近親者の付き添う看護費の額の算定に当たっては,近親者の休業損害相当額を参考に算定した事例もあります。
支払の方法としては,一括支払いのほか,定額金払の方法もあります。
■入院雑費
入院に伴い,おむつ代,日常雑貨購入費等様々な雑費が発生しますが,これについてはその費用が多品目にわたるため,実務上は定額化され,入院日額1,500円程度が認められているようです。■将来の雑費
症状固定以降についても,重度後遺障害等症状の程度,傷害部位等により現実の必要性がある場合には,損害として認められます。■原則
被害者の通院交通費は,損害として認められることになりますが,損害の算定において基準となるのは,原則として,バス・電車等公共交通機関の利用料金です。自家用車による通院場合はガソリン代等の実費相当額となります。ただし,障害の程度およびその他の事情によって,公共交通機関での通院が困難である場合にはタクシー料金が損害として認められることもあります。
■付添人交通費・宿泊費
近親者が付添のために使用した公共交通機関の利用料金,看護のために宿泊した場合の宿泊費については,その必要性がある場合には認められることがあります。宿泊費が認められるには,入院地が遠方である,また被害者の症状が重篤である等の事情が必要となるでしょう。
■帰国費用
その他の問題として近親者が海外にいる場合の帰国費用が問題となるケースもあります。この点に関しても,被害者の症状が重篤であり,看護の必要性がある場合,実親の死亡等により帰国の必要性があった場合等に認められた事例もあります(最判昭49・4・25民集28・3・447等)。
葬儀費用については,いずれ人は死亡することから,従前,これを認めるべきか否かについて議論がありましたが,判例はこれを認めています(最判昭43・10・3判時540・38)。葬儀費用については,定額化が図られており,「赤い本」基準で原則として150万円,これを下回る場合には実際に支出した額とされていますが,裁判例では150万円以上の葬儀関係費用を認めた例も少なくありません。
■墓石建立費,仏壇購入費,遺体搬送費等
葬儀費用とは別に,墓石建立費,仏壇購入費も損害として認めた事例(横浜地判平元・1・30自保826・2),考慮した事例(神戸地判平18・4・7自保1661・19),また遺体搬送費を損害として認めた事例(大阪地判平18・4・7交民39・2・520)もあります。
弁護士費用については,その費用の全てが損害として認められるわけではなく,現実に裁判上認められる額は,請求認容額の10%程度です。
損害に関しては,治療費等,事故後の現実の支出を伴うものがほとんどですが,総額について事故日より起算するものとされています。
交通事故においては,上記の費用のみならず,その他様々な損害が発生します。これら損害についても必要かつ相当なものについては損害として認められることになります。
自動車等耐用年数の関係で将来買換えが必要なものについては,将来の改造費用も損害として認められます。
■家屋・自動車等改造費
受傷の程度により,今後の生活のために家屋の改造,自動車の改造が必要とされる場合,被害者の後遺障害の程度,その内容,被害者の現状,家族の利便性などを考慮して,必要かつ相当なものについては,損害として認められます。自動車等耐用年数の関係で将来買換えが必要なものについては,将来の改造費用も損害として認められます。
■装具,器具等購入費
義手,義足,義歯,メガネ,コンタクトレンズ,電動ベッド,盲導犬費用など。これらについても,将来買換えが必要な場合には,将来の損害として認められます。■医師への謝礼
通常医師の治療行為への対価は,治療費その他に含まれており,また,近時は,病院自体,医師,看護師への個別の謝礼を禁止しているところもあり,別途,医師へ謝礼を支払った場合,損害に含まれるのかが問題となります。しかし,症例によっては,当該医師へ治療行為を依頼するのに謝礼が必要なケースもあり,社会通念上相当なものであれば,損害として認められることもあります。