自賠責共済とは,農業協同組合法に基づき責任共済の事業を行う農業協同組合または農業協同組合連合会,中小企業等協同組合法に基づき責任共済の事業を行う事業同組合,協同組合連合会が行うものです(自賠6②)。自動車損害賠償保障法で自賠責保険とほぼ同様の定め になっています(自賠23の3・旧23の4)。
自動車(道路運送車両法2条2項に規定する自動車(農耕作業のように供することを目的として制作した小型特殊自動車を除きます。)および同条3項に規定する原付自転車(自賠2①)は,こうした自賠責保険または自賠責共済の契約が締結されているものでなければ,運行のように供してはなりません(自賠5)。
■支払基準
自賠責保険は,保険金額を限度に支払う基準が定められています(自賠令2・別表1・別表2,支払基準)。ちなみに傷害による損害の保険金額・共済金額・損害賠償額は120万円とされています(死亡に至るまでの障害による損害も,要介護を要する後遺障害に至るまでの障害による傷害も120万円です)。【自賠責保険金額表】
※別表第一:介護を要する後遺障害
別表第二:介護を要しない後遺障害
※後遺障害の等級について、詳しくは後遺障害ページをご覧ください。
■重過失減額
また被害者に重大な過失がある場合であっても,加害者に過失がある限り,下表のとおり被害者に有利な減額割合となっています。なお損害額が限度額を超える場合には支払限度額から減額します(支払基準第6・1)。(※1)傷害による損害額が20万円未満の場合は減額されず、
減額により20万円以下となる場合は一律20万円となります。
(※2)自賠責保険では支払われません。
■仮渡金制度
被害者の当座の治療費や生活費など当座の出費に当てられるように,保有者の損害賠償責任の有無や損害賠償額の確定前に,次の金額を自動車損害賠償保障法第16条1項の規定(同法23条の3第1項で準用されるところのものを含みます。)による損害賠償額の支払のための仮渡金として保険会社に請求でき(自賠17①・23の3①,自賠令5),保険会社はかかる請求があった場合には遅滞なく支払わなければなりません(自賠17②・23の3①)。もっとも支払われた仮渡金が支払うべき損害賠償額を超える場合には,その超えた額を返還することになります(自賠17③・23の3①)。
a 死亡した場合…290万円
b 次の傷害を受けた場合…40万円
・脊柱の骨折で精髄を損傷したと認められる症状を有するもの
・上腕または前腕の骨折で合併症を有するもの
・大腿または下腿の骨折
・内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの
・14日以上病院に入院することを要する傷害で,医師の治療を要する期間が30日
以上のもの
c 次の傷害を受けた場合(bを除きます。)…20万円
・脊柱の骨折
・上腕または前腕の骨折
・内臓の破裂
・病院に入院することを要する傷害で,医師の治療を要する期間が30日以上
のもの
・14日以上病院に入院することを要する傷害
d 11日以上医師の治療を要する傷害(bとcを除きます。)を受けた場合…5万円
■一括払
加害者が自賠責保険のほかに任意保険の対人賠償契約を締結している場合,任意保険を取り扱っている保険会社が自賠責保険部分を立て替えて任意保険と合わせて被害者に損害を賠償することができます(一括払)。もっとも任意保険で免責となっている場合や損害賠償額が明らかに自賠責保険支払額内である場合には,原則として一括払は行いません。また人身傷害保険についても,同様に,その取扱保険会社による一括払をすることができます。
■決定に対する異議申立て
保険金の支払に係る決定,被害者請求における損害賠償額の決定,一括払事前認定の回答に不服がある場合,保険会社に対して異議申し立てを行うことができます。異議申立ては,一括請求の時には任意保険会社に対して,被害者請求の時には自賠責保険会社に対して,異議申立書に言いの趣旨とその理由を述べ,根拠となる新たな診断書など必要な資料を添付します。 異議に対して回答がなされますが,これに不服がある場合は,同様に,再度異議申立てを行うことができます。特に異議申立ての回数に制限はありません。■無保険車,無共済車による事故被害の救済
ひき逃げ事故などで加害者量の保有者が明らかでない場合や無保険車・無共済車による事故あるいは盗難車による事故などで責任保険の被保険者および責任共済の被共済者以外の者に自動車損害賠償責任がある場合(自動車損害賠償保障法10条の適用除外を除きます。)の被害者は,自賠責保険では救済されません。これらの場合は政府保障事業により救済が図られます(自賠71~82の2)。■てん補基準
損害のてん補の基準は自賠責と同様ですが(自賠令20,平19・3・30国交告415「自動車損害賠償保障事業が行う損害のてん補の基準」(以下「てん補基準」といいます。)),次のような違いがあります。
a 傷害と後遺障害の請求権者は被害者,死亡の請求権者は法定相続人および遺族
慰謝料請求者(被害者の配偶者,子および父母)
b 健康保険,労働者災害補償保険などの社会保険からの給付を受けた不足分につ
いて補填(自賠73①)
c 仮渡金制度がない
d 車両ごとではない(複数車両の共同不法行為の場合,自賠責は車両ごとに請求が
できるが,政府保障事業ではできない)
e 平成19年3月31日以前の事故については通常の過失割合が適用される(なお同年
4月1日以降の事故ではてん補基準により自賠責と同様の重過失減額がなされま
す。)
f 同年3月31日以前の事故はa同乗させた者との人的関係,同乗の目的及び態様に
より慰謝料部分の減額が,b同乗後の挙動等により損害全体について減額がそれ
ぞれ一定程度なされる(財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事
交通事故訴訟損害賠償算定基準2008(平成20年)下巻』210頁(講演録編)「政府
保障事業の運用変更について」)
g 請求権者と賠償責任者が同一生計に属する親族間の事故で,賠償責任者が死亡
し,請求権者が相続の放棄または限定承認をした場合,例外的に損害のてん補を
行うが,同日以前に生じた事故の場合には,その額は2分の1とされる(運用)
また,被害者が既往症等を有していたため,死因または後遺障害発生原因が明ら
かでない場合等受傷と死亡との間および受傷と後遺障害との間の因果関係の有無
の判断が困難な場合には,死亡による損害および後遺障害による損害について,積
算した損害額が限度額に満たない場合には積算した損害額に,限度額以上となる
場合には限度額に5割を乗じた額の減額を行います(てん補基準第6・2)。